※この日記は過去の自分の日記の再掲です。日記消えちゃうので…。
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「もしもーし」
「あ、すなおです・・・今終わりました・・・」
「おつかれさまー」
のんきな事務局の声が耳元を抜ける。
自分の心境とあまりに真反対の声に、思わず溜め息を零しそうになる。
僕はすなお。駆け出しの女風セラピストだ。
「女風」というのは「女性向け風俗」のことで、通常の風俗とは逆に
男性が女性に対価を貰う代わりに性的なサービスをすることだ。
最近、雑誌やYoutubeでも取り上げられる機会が増え、にわかに認知度が向上している。
かくいう僕も、1年ほど前に存在を知った。最初はなんだか怪しいと思っていたが、
大手はキャスト数や実績も多数あり、身近に「利用した」という人も増え始めたことで、
ようやく女性向け風俗に対する偏見を排除することが出来た。
と、同時に、セラピストという職業に興味が出てきた。
一体どういうことをするのか、どういう人が来るのか、性行為が上手くなるのか?
一度好奇心が沸くと、止まらない性格だ。
人生で一度くらいそういう経験をしてみてもいいだろう。そう思って僕は大手女風店に応募し、面接や講習を経て何とかセラピストに登録することが出来た。
そして今日は2人目のお客様に接客をした。
結論から言えば、大失敗だった。
ホテルに入った瞬間から嫌な予感はしていた。案の定、トークは滑るし、歯ブラシの準備は忘れるし、バスタオルは使い切ってしまうし、相手の入浴中に電気を消してしまうし…。
お風呂場から出てきたときに「どうも、パンツマンでーす!」とキャラにもない一発ギャグをかましたのが致命的にダメだった。
そんな状況で雰囲気づくりもクソもない。
メンタルがズタボロのまま挑んだ施術は、短すぎるマッサージと酷すぎる手マンのコンボ。焦りに焦って丁寧さを欠いた。
施術の終盤ごろからの雰囲気は最悪だった。
無言でシャワーを浴び、必要最低限の会話しかできなかった。少しでもフォローをしようと考えたが、パンツマンの呪いが重く圧し掛かり、上手い返しが見つからない。
「メンバーズ、カードヲ、オイレクダサイ!」
自動精算機がお金を飲み込んでいく姿を二人で無言で眺めていた。
当然、別れ際も酷かった。
「また今度」の一言もないまま、駅へと向かう彼女を見送った。
僕は溜め息をこらえ、通話終了のボタンを手にやった。
気付いたらさっきまでいた「ホテル と、いうわけで」に戻っていた。
何が起こったのか、さっぱりわからない。
呆然とスマホに目をやると、時間は16時20分…僕がちょうど「開始の連絡」を入れた時間だった。
「戻って…る……?」
アニメ好きならだれでも聞いたことがある、「タイムリープ」というやつだ。一体全体、なんでこんなことになったかわからなかった。
バスルームから、シャワーの水が床を叩く音が聞こえて、僕は我に返った。そうだ、仕事だ、仕事をしなければ。よくわからないが時間が「戻って」しまった。もしかしたらこれは神様が僕に与えてくれたチャンスかもしれない。
僕は、とにかくベッドメイキングと、雰囲気作りの照明設定を急いだ。今度はバスルームの電気を間違って消したりしない。それから忘れていた歯ブラシの準備をこっそりして、施術道具も準備した。
滑ったトークの挽回はできないが、それ以外の準備は完璧だろう。
彼女がバスルームから出てきたので、入れ替わりでシャワーに入った。
パンツマンはもう、引退だ。
僕は心なしか余裕をもって施術に挑むことが出来た。マッサージから性感マッサージへ、入念に、丁寧に施術する。
一発ギャグで滑ったりしなかったからか、心に余裕があり、講習のことを思い出しながら施術することが出来た。
1回目と比べると、彼女の反応は明らかに違う。完璧だ。
そのまま手マン、そしてクンニへと移行する。すべてが思った通りに上手くいった。リベンジ成功だ。
施術後の会話もそこそこ盛り上がった。
さすがに一朝一夕にはトーク力は上がらないが、彼女が「西洋の悪魔に詳しい」という変な情報も得ることが出来た。
「メンバーズ、カードヲ、オイレクダサイ!」
自動精算機に飲み込まれるお金をじっと見つめる。さっきより心なしか、飲み込まれていくまでの時間が早い気がした。
別れの時が来た。
僕は今度は自信をもって、「じゃあ、またね」ということが出来た。
彼女は少し微笑んでいった。
「じゃあね。」
彼女の姿が見えなくなるのを確認し、僕は事務局へ終了の電話を入れた。
「もしもーし」
「あ、すなおです!今終わりました!!」
「おつかれさまー」
今度は1回目とは違う。元気いっぱいに終了連絡をした。
通話終了のボタンを押し、顔を上げた。
そこはまた「ホテル と、いうわけで」だった。
状況の理解が出来なかった。
普通、アニメのタイムリープ物は、「成功したらタイムリープを脱出できる」のがセオリーだ。
それなのに脱出できていない。
考えられるのは2つ。
①まだ成功していない
②永久にタイムリープし続けるパターン
②の可能性は、考えたくなかった。
浴室から、シャワーの音が聞こえる。
考えている暇はない。僕はまた、ベッドメイキングと照明設定に取り掛かった。
3回目の施術は、2回目とほとんど大差なかった。
相手がシャワールームに入ったときに西洋の悪魔について少し調べておくことが出来たので、最後のトークで一盛り上がりできたくらいだった。
彼女の「じゃあね。」を見送って、事務局に終了の電話を入れる。
これで終わらなければ…僕はどうなる?
「もしもーし」
「すなおです、今終わりました」
「おつかれさまー」
大事なのは、ここからだ。
目を閉じて通話終了のボタンを押す。
そしてゆっくりと目を見開いた。
またしてもホテル「と、いうわけで」だった。
シャワーの音が聞こえている。
ザァザァと鳴り響くシャワーの音は、心のざわめく音にも聞こえた。
でも、ここで終わるわけにはいかなかった。
もしかしたらまだ回収していないフラグがあるのかもしれない。
僕は慣れた手つきでベッドメイキングと照明の調整作業に入った。
そこから、僕は4回ほど同じような施術を繰り返した。
その中で気付いたことが、いくつかある。
1つ目は、タイムリープすると体力は元に戻っているということ。
2つ目は、彼女の表情はわかりづらいが、よくよく見ると喜んでいるときとそうでないときで眉の高さが変わるということ。
そして、3つ目。
最後の別れ際の「じゃあね」の時は、眉の高さが変わっていない、ということ。
彼女を喜ばせることがミッションのこのタイムリープにおいて、
僕はまだまだフラグを回収出来ていなかった、ということだ。
失意のままに8回目の施術が始まった。
マッサージまではスムーズで、そこから性感へと移行する。問題はここからだ。
施術をしている途中、不意に彼女の肩を見た。
本当に偶然の所作だったが、そこで初めて彼女が「内ももが弱い」ことが分かった。
そこで、ゆっくりと、重点的に内ももを攻めた。
するとどうだろう、鍵のかかった扉が開くかのように、彼女の股も自然と開いていった。
そこではじめて気づいた。
よく考えればこの数回、僕が見ていたのは「彼女」ではなかった。
講師に言われたことを言われたままやる、施術マシーンだった。
いやいや、講師の方が悪いんじゃない。
講師の方も、「相手のリアクションをよく見なさい」と言っていたはずだ。
一番大事なポイントを、僕は今の今までやらないでいたのだ。
そこからは、相手のリアクションをよく見るようにした。
そして、8回目の施術が終わったのち、あることに気づいた。
彼女は終わった後、すこし恥ずかしそうにしながらも、布団越しに僕の股間を触ろうとしていたのだ。
もしかして、と思い、「触りますか?」と尋ねた。
彼女は眉を高く上げながら、「いいんですか」と問い返した。
解けてみれば、何のことはなかった。
彼女は「攻めたいタイプ」だったのだ。
そういえば、事前のトークでもそんなことを言っていたような気もする。
体力は戻っても記憶は戻らないので、事前のカウンセリングは遥か昔の記憶になってしまっていた。
彼女の攻めは、すごかった。
ローションよりも大量の唾液にまみれた局部が、指の一つ一つに絶妙な力加減で刺激され、舌全体が裏筋を這い、まだ作りかけの精子まで吸い取られそうになるぐらい搾り取られた。
僕がまさに「精魂尽き果て」ベッドに横たわっていると、彼女は「もうこれで終わりなの?」といって、
今度は乳首をまさぐり始めた。
押し寄せる快楽の波はまるで津波のよう。I know、おびえてる~、フ~。
結局、時間いっぱい攻めに攻められた。
彼女は最初に見たときとは全く別人で、少し意地悪な顔をした、いかにもS女といった風に見えた。
そういえば、彼女の予約の時の名前は「サキュ・バス子」だった。
サキュバス…男の性を絞りつくす淫魔…。
「メンバーズ、カードヲ、オイレクダサイ!」
自動精算機の無機質な音声が流れる間も、バス子は「魔女狩り」について語っていた。
バス子を駅まで見送る。帰路もバス子のテンションは高かった。
僕は心の中で、今日1日を思い返した。
最初はどうなることかと思ったが、最後はやっぱり楽しかった。
そして、大事なことを学んだ。
お客様にはいろいろな人がいる。攻められたい人もいれば、攻めたい人もいる。
マニュアル通りにするだけじゃない、ちゃんと相手を見ることが大事なんだ、と。
遠くに見える夕陽は、アニメのエンディングを想起させた。
駅に着いた。いよいよ別れの時間。
僕は結局16時間以上一緒にいたバス子との別れがたまらなく惜しくなっていた。
改札に向かう彼女に向って、僕は言った。
「じゃあ、またね。」
バス子は振り返り、眉を高らかに上げて言った。
「じゃあ、 ま た ね 。」
これが答えだったんだ…。
神様は僕にそれを教えるために、このタイムリープを仕組んだんだ。
僕は本気でそう思った。
「もしもーし」
「あ、すなおです。今終わりました。」
「おつかれさまー」
事務局への終了報告が終わり、通話終了のマークに手をやる。
これで、終わり。
そう思ったのも束の間、気付いたらまた「ホテル というわけで」にいた。
・・・
結局、そのあと僕は5回ループした。
バス子には散々しごかれ、アナルをいじられ、なぜか持っていたエネマグラや
ローションガーゼでボロボロになるまで攻められ続けた。
最後には僕もメス堕ちしていて、訳のわからない言葉で喘ぎまくっていた。
13回目の施術後、絶望する僕の顔を見下すバス子の顔は、まさに悪魔そのものだった。
多分、あのタイムリープは、神様が与えてくれたギフトなどではなくて、
淫魔が仕掛けた戯れに過ぎなかったのだと思う。
ループから抜け出したとき、僕は思わず泣いた。
精子は枯れ果てたのに、涙は枯れることを知らなかった。
でも同時に、もう一度あの快楽を知りたいと思うようになり、
気付いたらAmazonでアナル用のローションを大量に買い込んでいた。
完
※この物語はフィクションです。すなおはアナル用のローションを持ってはいますが、決してタイムリープしてわけでも、サキュバスに出会ったわけでもありません。
各種お問い合わせは、一旦Xまで。
https://x.com/man_sunaoh3157
(時々フィルタリングされて気付きにくいことがございます。ご了承ください。)